万葉の故地を写真で巡る 万葉の風景


10-1866 春雉(きぎし)鳴く 高円の辺に 桜花 散りて流らふ 見む人もがも 作者不詳 高円




写真: 高円野の桜
Apr. 3, 2010
Manual focus, Lens105mm, Format67
RVP100F

巻10巻頭"春の雑歌"の"花を詠む"と題する20首のうちのひとつ。"雉の鳴く高円の野に桜の花が散り流れている。見る人とてないのに。"

奈良時代の平城京は、町が坊条により整然と区画されていました。ところが、その周辺部には、"野"と呼ばれる広がりがあり、貴族たちの遊興の場所になっていました。今の春日大社の境内にあたる"春日野(かすがの)"、西の坊外に広がっていた"高野(たかの)"、そして東郊の"高円野(たかまどの)"が有名です。これらの場所を実際に歩いてみると、いずれも緩やかな勾配の広がりになっており、なおかつ盆地全体が見渡すことが出来る風光明媚な場所であったことが偲ばれます。貴族の別荘なども多かったようです。例えば、高円に残る白毫寺は、かつて志貴皇子の隠居所のあったところと伝わります。
"高円"の地名が登場する万葉歌は、全部で15首ありますが、そのほとんどが草花を詠み込んだ歌です。有名な5首をあげておきましょう。

02-0231 高円の 野辺の秋萩 いたづらに 咲きか散るらむ 見る人なしに 笠金村
08-1440 春雨の しくしく降るに 高円の 山の桜は いかにかあるらむ 河辺東人
08-1629 ねもころに 物を思へば 言はむすべ 為むすべもなし 妹と我れと 手携さはりて 朝には 庭に出で立ち 夕には 床うち掃ひ 白栲の 袖さし交へて さ寝し夜や 常にありける あしひきの 山鳥こそば 峰向ひに 妻問ひすといへ うつせみの 人なる我れや 何すとか 一日一夜も 離り居て 嘆き恋ふらむ ここ思へば 胸こそ痛き そこ故に 心なぐやと 高円の 山にも野にも うち行きて 遊び歩けど 花のみ にほひてあれば 見るごとに まして偲はゆ いかにして 忘れむものぞ 恋といふものを 大伴家持
08-1630 高円の 野辺のかほ花 面影に 見えつつ妹は 忘れかねつも 大伴家持
20-4297 をみなへし 秋萩しのぎ さを鹿の 露別け鳴かむ 高円の野ぞ 大伴家持

今も高円の辺りはほとんどが田畑のままで、かつての"野"の風景を偲ぶことが出来ます。
(記: 2010年4月18日)


トップ頁 プロフィール 万葉の風景 万葉の花 作家の顔 雑歌 相聞歌 挽歌 雑記帳 リンク

万葉集の風景 "View of Manyou" HP開設: 2008/5/1 頁アップ: 2010/4/18 Copyright(C) 2008 Kosharaku All Rights Reserved

inserted by FC2 system