万葉の故地を写真で巡る 万葉の風景


16-3788 耳成の 池し恨めし 我妹子が 来つつ潜かば 水は涸れなむ 縵児を争う男のひとり 耳成山




写真: 池に映る耳成山
Oct. 10 2009
Manual_Focus Lens150mm, Format67
RVP100F

所謂"耳成の縵児(かづらこ)伝説"の中で、耳成の池に身を投げて死んでしまった娘を想って男が詠んだ歌。"耳成山の池が恨めしい。あの娘子がやってきて身を投げてしまうんだったら、水を涸らせてくれていればよかったのに。"

万葉集巻16は、"由縁ある雑歌"と題して、特に伝説や物語がある歌が集められています。この歌はその冒頭二番目に、所謂"耳成の縵児(かづらこ)伝説"にかかわる歌として取り上げられています。すなわち、耳成の池に投身自殺してしまった縵児(かずらこ)を悼んで、その愛を争った男のひとりが詠った歌がこの歌です。伝説のあらましは、次のようなものです。

或る人の言うところには、昔三人の男がいた。ともに一人の女を妻問いしたところ、娘子は「一人の女の身の滅び易いことは露のようなもの。それなのに三人の男の気持ちを和らげ難いことは、まるで巌のようだ」と嘆いて、池の畔をさ迷い、ついには身を投げて水底に沈んでしまった。三人の男は、悲しみに耐えられなくなって、各々その心を詠った。
    
16-3788 耳成の 池し恨めし 我妹子が 来つつ潜かば 水は涸れなむ
16-3789 あしひきの 山縵の子 今日行くと 我れに告げせば 帰り来ましを  
16-3790 あしひきの 玉縵の子 今日のごと いづれの隈を 見つつ来にけむ

万葉集には、複数の男子が一人の妻を争った挙句、女性が自殺してしまうという伝説が数多く残されています。この耳成の"縵児(かづらこ)伝説"の他には、"桜児(さくらこ)伝説"、"真間(まま)の手児名(てこな)伝説"などが有名です。妻問婚の時代にあっては、当然多くの男子の妻問いを受けて悩む女性もいたわけで、各地に同類の伝説を生む下地になりました。
なお、耳成山は、大和三山の中でも一番秀麗な姿をしていて、富士山のように円錐形をしています。その西麓の木原の地に縵児伝説の池があったとされていますが、今は涸れてなくなってしまったそうです。写真の池は耳成山の南麓に近世になって新しく作られた池(古池)で、伝説上の池とは異なりますが現在は公園になっており、美しい耳成山の姿を映して往時を忍ばせてくれます。
(記: 2009年10月31日)


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万葉集の風景 "View of Manyou" HP開設: 2008/5/1 頁アップ: 2009/10/31 Copyright(C) 2008 Kosharaku All Rights Reserved

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