万葉の故地を写真で巡る 万葉の風景


14-3373 多摩川に さらす手作り さらさらに なにぞ この子の ここだ愛しき 武蔵国歌 多摩川




写真: 多摩川、登戸辺り
Jun. 20 2009
Manual focus, Lens28mm, Format35mm
RDPV

武蔵国歌のひとつ。"多摩川に晒す手作りの布がサラサラと美しく流れるように、何故この児がこんなにかわいいのだろうか。"

久しぶりに東京に行く機会がありましたので、時間を見つけて多摩川の写真を撮ってきました。私の東京の拠点(旧居)が田園都市線沿線でしたので、よく知るのは二子多摩川あたりですが、もう少し上手のほうを撮りたかったので登戸(小田急線)まで。この辺りまで来ると、水量が少ない夏場にはせせらぎが現れます。上句の"多摩川に さらす手作り さらさらに"の音律が素晴らしいので、歌の表現に合った多摩川の写真を撮りたかったからです。
コンクリートの護岸に囲まれた多摩川では雰囲気が出ません。場所を求めて登戸駅から上手に1kmほど歩くと、果たしてこのようなせせらぎを見つけることができました。これくらいの水量だったら、布を晒すのにもってこいではないでしょうか。
さて、この万葉歌は、"武蔵国の歌"として巻13に9首一纏めで掲載されているうちのひとつ。おそらく、武蔵国の国府から中央に献納された現地伝承歌の一群と思われます。多摩地方では、かつて麻で織った布を河の水で晒す作業が広く行われていました。布晒しは女性の作業ですが、この歌は布晒し作業を行う女性のひとりに想いを寄せる男性の気持ちを詠ったものです。ただし、特定の男女関係を詠った歌ではなくて、布晒しの作業場で行われる歌掛けで、汎く詠われた流行歌のようなもので、多摩地方の庶民に愛唱されていました。(辰巳正明著「歌垣」より)
しかし、この歌は音律が素晴らしいだけでなく、東国庶民女性の健康的で美しい姿が彷彿とされて、大変素晴らしい出来と思います。現代でも、流行歌の多くが想う人の美しい姿を歌う愛の歌であることと変わりがありません。
(記: 2009年8月1日)

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万葉集の風景 "View of Manyou" HP開設: 2008/5/1 頁アップ: 2009/8/1 Copyright(C) 2008 Kosharaku All Rights Reserved

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