13-3330
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隠口の 泊瀬の川の 上つ瀬に 鵜を八つ潜け 下つ瀬に 鵜を八つ潜け 上つ瀬の 鮎を食はしめ 下つ瀬の 鮎を食はしめ くはし妹に 鮎を取らむと くはし妹に 鮎を取らむと 投ぐるさの
遠ざかり居て 思ふそら 安けなくに 嘆くそら 安けなくに 衣こそば それ破れぬれば 継ぎつつも またも合ふといへ 玉こそば 緒の絶えぬれば くくりつつ
またも合ふといへ またも逢はぬものは 妻にしありけり |
(訳)
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初瀬川の上流に鵜たくさん潜(かず)けて、下流にもたくさん潜けて、年魚を貴女に食べさせてあげたものだ。美しい貴女のために年魚を獲ろうと箭(さ)を投げたものだが、今は亡くなって遠くになってしまって、そのことを想っただけで不安で、嘆く気持ちで心が静かでない。衣装が破けたのならば繕えばまた合わせることが出来るし、玉の紐が切れたのならば、また紐を通せばまた合わせることが出来るのだが、再び合わせることが出来ないのは、亡くなってしまった妻なのだ。 |
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13-3331
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隠口の 泊瀬の山 青旗の 忍坂の山は 走出の よろしき山の 出立の くはしき山ぞ あたらしき 山の 荒れまく惜しも |
(訳)
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初瀬山、忍坂山は、我が家から走り出でたところにある美しい山である。そんな立派な山があなたがいないので、荒れてしまうのは惜しいことだ。 |
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13-3332 |
高山と 海こそば 山ながら かくも現(うつし)く 海ながら しかまことならめ 人は花ものぞ うつせみ世人 |
(訳)
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高山と海であれば、その性格として、厳然として常にそこに存在するが、人は花のように散りやすいものだ。この世の人はすべてそういうものだ。 |