万葉の故地を写真で巡る 万葉の風景


12-2970 桃染め(つきぞめ)の 浅らの衣 浅らかに 思ひて妹に 逢はむものかも 作者不詳




写真: 桃の花、生駒山にて
Apr. 3, 2010
Manual_Focus Micro Lens135mm, Format67
RVP100F

万葉集巻12の寄物陳思から。"桃染め(つきぞめ)の浅い色の衣のように、浅い気持ちであなたに会うことがあるでしょうか。"

原文には、"桃花褐"とありますが、これは"つきぞめ"と読み、淡い桃色に染める染色手法のことをいいます。これは孫引きになってしまいますが、天智紀に「桃染布五十八端」、衣服令に「衛士・・桃染衫」、衛門府式に「衛士、桃染衫」、左右京式に「凡兵士、以浅桃染今云桃花裳也」とあり、この桃染め(つきぞめ)は、宮殿を守る衛士の服装であることがわかります。
この歌は、万葉集巻12に寄物陳思と題して集められた歌の一首にあたります。寄物陳思とは"物に寄せて想いを陳べる"という意味で、一種の題詠にあたります。当時の風俗が偲ばれる歌が多く、民俗学上興味がつきません。例えば、衣装に絞ると次のような歌があります。

12-2965 橡(つるばみ)の 袷(あわせ)の衣 裏にせば 我れ強ひめやも 君が来まさぬ
12-2968 橡(つるばみ)の 一重の衣 うらもなく あるらむ子ゆゑ 恋ひわたるかも

橡(つるばみ)の衣とは、ドングリの実を煮てその汁で染めた衣です。衣服令によると、家人や奴婢などが着る衣服とされています。

12-2966 紅の 薄染め衣 浅らかに 相見し人に 恋ふるころかも
12-2970 桃染め(つきぞめ)の 浅らの衣 浅らかに 思ひて妹に 逢はむものかも

紅の薄染め衣とは、桃染め(つきぞめ)と同じであると思われます。

12-2971 大君の 塩焼く海人の 藤衣 なれはすれども いやめづらしも

藤衣とは、藤の繊維で作った粗末な衣のことで、海人が着る衣装とされていたことがこの歌からわかります。

12-2972 赤絹の 純裏(ひつら)の衣 長く欲り 我が思ふ君が 見えぬころかも

赤絹の純裏(ひつら)の衣とは、面裏が同じ赤い絹で出来た、高貴な人が着る高級な衣装のことです。

12-2974 紫の 帯の結びも 解きもみず もとなや妹に 恋ひわたりなむ
12-2976 紫の 我が下紐の 色に出でず 恋ひかも痩せむ 逢ふよしをなみ

紫の下帯とは、紫の根で染めた"紫染め"の下帯のことです。紫は、最も高貴な色とされていましたが、セクシーな色としても認識されていたようで、特に下帯を紫色に染めたのは、そのような意味があったからに他なりません。その他の巻にも次のような歌があって、"紫草の根延う"と"夜這う"が掛けられていたりします。

12-2974 むらさきの にほへる妹を 憎くあらば 人妻ゆゑに われ恋ひめやも
04-0569 韓人の 衣染むといふ 紫の 心に染みて 思ほゆるかも
10-1825 紫草の 根延ふ横野の 春野には 君を懸けつつ 鴬鳴くも
12-3101 紫は 灰さすものぞ 海石榴市の 八十の街に 逢へる子や誰れ
14-3500 紫草は 根をかも終ふる 人の子の うら愛しけを 寝を終へなくに

(記: 2010年7月25日)

トップ頁 プロフィール 万葉の風景 万葉の花 作家の顔 雑歌 相聞歌 挽歌 雑記帳 リンク

万葉集の風景 "View of Manyou" HP開設: 2008/5/1 頁アップ: 2010/7/25 Copyright(C) 2008 Kosharaku All Rights Reserved

inserted by FC2 system