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我妹子を 聞き都賀野辺(つがのへ)の しなひ合歓木(ねぶ) 我れは忍びず 間なくし思へば |
作者不詳 |
兎我野 |
写真: 兎我野町のラブホテル街
Jan. 10 2010
Manual_Focus, Lens28mm
RDPV |
万葉集に抜粋されている柿本人麻呂集の"寄物陳思"から。"寄物陳思"とは、恋を述べるのに事物を用いて表現するという意味。
"我妹子を聞き"は"ツガ(継が)"に掛かる序言葉。また、"しなひ合歓木(ねぶ)"は類音の"シノビ(忍び)"に掛かって"序"を構成して、序言葉の二重構造になっている。
「今私はあなたの声を聞き継いでいます。あなたは都賀野の畔にしなう美しい合歓の木のようです。私は忍びかねているのです。絶えずあなたのことを恋しく思っているので。」 |
"合歓の木"は、初夏に淡い紅色の花を咲かせますが、夜になると葉を閉じて眠るので、"合歓(ねむ)"の字が充てられて、男女のセックスを暗喩しています。また、"我妹子を聞き継ぐ"とは、おそらく逢瀬の秘め事における女性の官能の声をずっと聞いていると情熱的に吐露しているのであって、極めて官能的な表現になっています。さらに、序言葉が二重に重なって非常に複雑な構造になっており、声に出して読んでみるとよくわかりますが、幾重にも重なる艶かしいイメージが、めくるめく男女交合の快感を良く表現しています。
なお、"都賀野辺"は、現在の大阪市北区兎我野町(とがのちょう)にあたり、ご覧のように、繁華街裏手のラブホテル街になっています。都賀野辺は、今も"合歓"の花咲く恋の町でありました。 |
(記: 2010年2月1日) |
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