万葉の故地を写真で巡る 万葉の風景


10-1867 阿保山の 桜の花は 今日もかも 散り乱ふらむ 見る人なしに 作者不詳 阿保山の桜




写真: 不退寺、阿保山の桜
Apr. 4, 2010
Manual focus, Micro Lens135mm, Format67
RVP100F

巻10巻頭"春の雑歌"の"花を詠む"と題する20首のうちのひとつ。"阿保山の桜は、今日も限りと散り乱れている。見る人とてないのに。" 前歌(1866番歌)の類型歌。

万葉集の時代の桜は"山桜"で、しかも山野に咲く自然木であったので、現代の桜とは随分趣が違っていました。山桜は、"染井吉野"が挿し木で増やすクローンなのに対して、実生なのでばらつきがあります。花色は、白やピンクなどバラツキがあって、花の大きさもいろいろです。葉の色も、白っぽいものから濃い桜色まで様々で、実際追いかけてみるとこんなに幅のあるものかと思うほどです。吉野などに咲く山桜は、園芸用に育てられた苗木を人が植えたものなので、花色が美しく揃っていて大きいのですが、総じて山野に咲く自然木の桜は花が小さく、満開の時期も通常の桜より遅いように思います。
万葉集には次のような歌があって、桜の花と一緒に躑躅の花が出てきますが、奈良辺りの山躑躅は、4月下旬から5月上旬に咲くのが通例なので、この歌に詠われている桜は、4月下旬に咲く自然樹の桜であることがわかります。

06-0971 白雲の 龍田の山の 露霜に 色づく時に うち越えて 旅行く君は 五百重山 い行きさくみ 敵守る 筑紫に至り 山のそき 野のそき見よと 伴の部を 班ち遣はし 山彦の 答へむ極み たにぐくの さ渡る極み 国形を 見したまひて 冬こもり 春さりゆかば 飛ぶ鳥の 早く来まさね 龍田道の 岡辺の道に 丹つつじの にほはむ時の 桜花 咲きなむ時に 山たづの 迎へ参ゐ出む 君が来まさば 高橋虫麻呂 竜田山
13-3305 物思はず 道行く行くも 青山を 振り放け見れば つつじ花 にほえ娘子 桜花 栄え娘子 汝れをぞも 我れに寄すといふ 我れをもぞ 汝れに寄すといふ 荒山も 人し寄すれば 寄そるとぞいふ 汝が心ゆめ 作者不詳 場所不詳

さて、写真の桜は、"阿保山"の不退寺に咲く山桜を撮ったもの。本当は、自然に咲く山桜を撮りたくて、いろいろ探したのだけれども良い桜が見つからないので、"阿保山"という地名を優先しました。自然の山桜が撮れなかった理由は、、奈良県辺りの山は、現在植林によってその多くが杉や檜の針葉樹林になってしまって、かつてどこにでもあった楢やクヌギの落葉樹林が少なくなってしまったことです。天然の山桜は、薄若葉色に萌える落葉樹林の若葉の間に、霞のごとく紛れているのが本来の姿です。そのような景色がなかなか見つからないので、結局今年は断念することにしました。これは来年の宿題ということにしておきましょう。
(記: 2010年4月18日)


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万葉集の風景 "View of Manyou" HP開設: 2008/5/1 頁アップ: 2010/4/18 Copyright(C) 2008 Kosharaku All Rights Reserved

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