万葉の故地を写真で巡る 万葉の風景


03-0330 藤波の 花は盛りに なりにけり 奈良の都を 思ほすや君 大伴四綱




写真: 春日大社の砂摺りの藤
Apr. 26 2009
Manual_Focus Lens150mm, Format67
RVP100

防人司佑(さきもりのつかさのすけ)であった大伴四綱の歌。「また、藤の花が盛りになりました。あなた様は奈良の都を懐かしくお思いになられるでしょうね」という意味。

この歌には、前後関係があります。この歌の前に、太宰少弐小野老人朝臣の有名な歌"あおによし寧楽の京師は咲く花の・・・"の歌があって、この歌はその続きとして詠まれているのです。また、この歌の後には、大宰府の長官であった大伴旅人の歌5首があって、前後関係あるいは歌の意味を考えると、これらは一連のものと考えるべきで、諸説あるようですが、大宰小弐であった小野老が何らかの用事で奈良の都に上り、その後大宰府に帰還した折の宴席の歌と思われます。

03-0328 あをによし 寧楽の都は 咲く花の 薫ふがごとく 今盛なり  小野老
03-0330 藤波の 花は盛りに なりにけり 奈良の都を 思ほすや君 大伴四綱
03-0331 わが盛 またをちめやも ほとほとに 奈良の京を 見ずかなりなむ 大伴旅人
03-0332 我が命も 常にあらぬか 昔見し 象(きさ)の小川を 行きて見むため 大伴旅人
03-0333 浅茅原(あさぢはら) つばらつばらに 物思(も)へば 古(ふ)りにし里し 思ほゆるかも 大伴旅人
03-0334 萱草(わすれぐさ) 我が紐に付く 香具山の 古りにし里を 忘れむがため 大伴旅人
03-0335 我が行(ゆき)は 久にはあらじ 夢(いめ)の曲(わだ) 瀬とはならずて 淵にてありこそ 大伴旅人

小野老の歌は大変有名で、すなおに奈良の都の盛況を歌ったと考えられます。ところが、大伴四綱の歌の意味はやや複雑で、「藤波の花」は都で権勢を振るう藤原氏のことを指していると考えられます。彼らの上司である大伴旅人は、藤原氏の勢力に押されて、神亀5年(728年)に64歳にして大宰師(だざいのそち))に左遷されるという憂き目にあって、この頃九州に着任したばかりと考えられます。
331番歌が、大伴旅人のその頃の正直な心情を伝えています。"私の若い盛りの頃が再びやってくるであろうか。いや戻ってこないだろう。あの賑やかな奈良の都を再び見ることはないであろう"と直情的に嘆いています。それに続く332番歌から335番歌に至っては、まさに老人の繰り言を聞くようで、少し哀れという気持ちがするくらいです。
しかし、旅人の左遷は、彼の詩人としての資質に火をつけたようで、大宰府で多くの歌作を残す契機となりました。
(記: 2008年7月20日)


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万葉集の風景 "View of Manyou" HP開設: 2008/5/1 頁アップ: 2008/7/20 Copyright(C) 2008 Kosharaku All Rights Reserved

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