万葉の故地を写真で巡る 万葉の風景


02-0169 あかねさす 日は照らせれど ぬばたまの 夜渡る月の 隠(かく)らく惜(を)しも 柿本人麻呂 金環日食




写真: 金環日食
May 21, 2012
Auto focus, Zoom lens, Digital
1600 Mega pixcel

草壁皇子が崩御したときに、柿本人麻呂が詠んだ挽歌(長歌)に対する反歌。
"天の太陽(持統天皇)は照っているが、夜わたる月(草壁皇子)がお隠れになってしまって、真っ暗なことは惜しい。"

2012年の5月21日は、日本中が金環日食の話題で持ちきり。そのためにお休みになった方も多いのではないでしょうか。私は休むことはなかったものの、少し早めに家を出て、見晴らしの良いところに車を停めて、ご覧のように日食を見ることが出来ました。
この写真は、最近買った小型のデジタルカメラで撮りましたが、なかなか良く撮れています。1600メガピクセル、3倍ズーム、手ぶれ補正付きで8,800円。手持ちにも係らず、中判カメラ並にクッキリ撮れてしまったので、ビックリです。オート露出なので、液晶画面を見ながら、このアタリかなとシャッターを切っただけで、なんだか当たり籤に当たったような気分。でも、狙って撮ったという充実感は全くありませんね。こういうのが面白いのでしょうか?
さて、この万葉歌は、皇太子であった持統天皇の長子"草壁皇子"が早世したときに、柿本人麻呂によって詠われました。後に歌聖と呼ばれる柿本人麻呂が、宮廷歌人として本格的に詠った最初の歌とされています。

日並皇子尊(ひなみにしのみこのみこと)の殯宮(あらきのみや)の時、柿本朝臣人麻呂の作る歌一首ならびに短歌
02-0167 天地の 初めの時 ひさかたの 天の河原に 八百万 千万神の 神集ひ 集ひいまして 神分り 分りし時に 天照らす 日女の命 天をば 知らしめすと 葦原の 瑞穂の国を 天地の 寄り合ひの極み 知らしめす 神の命と 天雲の 八重かき別きて 神下し いませまつりし 高照らす 日の御子は 飛ぶ鳥の 清御原の宮に 神ながら 太敷きまして すめろきの 敷きます国と 天の原 岩戸を開き 神上り 上りいましぬ 我が大君 皇子の命の 天の下 知らしめしせば 春花の 貴くあらむと 望月の 満しけむと 天の下 食す国 四方の人の 大船の 思ひ頼みて 天つ水 仰ぎて待つに いかさまに 思ほしめせか つれもなき 真弓の岡に 宮柱 太敷きいまし みあらかを 高知りまして 朝言に 御言問はさぬ 日月の 数多くなりぬれ そこ故に 皇子の宮人 ゆくへ知らずも
反歌二首
02-0168 ひさかたの天見るごとく仰ぎ見し皇子の御門の荒れまく惜しも
02-0169 あかねさす 日は照らせれど ぬばたまの 夜渡る月の 隠(かく)らく惜(を)しも

人麻呂にしては歌の調子が硬く、劇的な要素が少ない感じがします。
この後10年にわたり、持統天皇の御世において、彼は多くの挽歌や儀礼歌を詠みました。宮廷歌人として彼が果たした役目は、歌をもって天皇を荘厳すること、そして草壁皇子の忘れ形見である"軽皇子"を神格化して次の天皇につけることにありました。そのために、彼は和歌を壮大な叙事詩に作り上げて、中国の漢詩文に匹敵する文学に作り上げました。
最近読んだ「万葉集/隠された歴史のメッセージ(小川靖彦著)によると、万葉集巻1-2が編纂された直接の動機は、天武・天智・持統の三代の天皇の血脈の本となった"舒明天皇"の皇統(忍坂王家)を正当化すること(聖徳太子の上宮王家と皇位を争って、むしろ血脈的には傍流と見られていた)にあったとされています。これらの万葉第一期を代表する歌人として、額田大王が有名です。
小川氏の主張はさらに進んで、草壁皇子崩御後、兄弟相続が普通であったこの時代にあって、意図的に直系の軽皇子(文武天皇)を皇位に就けることを目的に万葉集は作られたとまで述べておられます。この万葉第二期を代表する歌人が、この柿本人麻呂ということになります。そのように考えると、この歌は大変重要なのです。
ちなみに、その後の巻3-16は、文武天皇の直系である首皇子(聖武天皇)の正当性を主張するために、原万葉集に後々付け加えられたと氏は主張しておられます。聖武天皇の母親は藤原氏の出身であり、確かにそれまでの両親が皇族の場合に天皇に就くことができるという原理原則から反していました。
柿本人麻呂の壮大な叙事詩は、そのような政治的な意図のもと、皇統を継ぐべき者を荘厳するために誕生したのです。
(記: 2012年5月27日)

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万葉集の風景 "View of Manyou" HP開設: 2008/5/1 頁アップ: 2012/5/27 Copyright(C) 2008 Kosharaku All Rights Reserved

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